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原酒の生は高価で魅力的

2016年に公開されたアニメ映画『君の名は。』で、ヒロインの三葉(みつは)ちゃんが奉納していた口噛み酒が話題になりました。映画では主人公の瀧(たき)くんが3年後に口にすることになるのですが、密閉されて洞窟に保管されていたとはいえ、あれは原酒だと思いますので、現実であればおそらく腐造していたのではないでしょうか。

原酒とは?

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原酒というのは文字どおりお酒の原形のことです。つまり純粋なお酒なのです。製造過程で割水と呼ばれる加水調整をしていないもののことを指すのです。日本酒であれば通常、1度目の殺菌処理である火入れの後に割水をします。アルコール度数、20度前後に出来上がったお酒の度数を調整するためです。これによってアルコール度数は15度前後に下げられて飲みやすくなるのです。それを踏まえて考えれば、お米を噛み砕き、吐き出して造った三葉ちゃんの口噛み酒はもちろん、割水をしていませんから紛れもない原酒というわけです。

原酒と生酒

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割水をしていない純粋なお酒ということは当然、味は濃厚です。薄められていないので、香りやコクがしっかりしています。お酒そのものの旨味がダイレクトに感じられるでしょう。原酒は日本酒ばかりでなく、ウイスキーでもありますね。ストレートでいただくとガツンとした飲みごたえが何とも言えません。あまりの旨味に卒倒しそうになります。
それほどしっかりしたお酒ですから、ロックやカクテルにして飲んでもよいですね。お酒本来の風味が損なわれることもないでしょう。せっかく薄めずに造った濃いお酒ですから、お酒独自の個性を消したくはないもの。大抵の場合、原酒は火入れをせずに出荷されます。通常の日本酒が2度火入れをするところを全く行わないのが生酒です。口噛み酒はまさにこれ。お酒本来の風味を楽しめます。

生酒は鮮度が大事

火入れをしないと言うことは殺菌されていないので当然、品質管理に手がかかります。それ以上、酵母が働かないよう、お酒を酸化させる火落ち菌が発生しないよう、低温で管理しなくてはいけません。どんなに細心の注意を払っても酵母や火落ち菌の影響を受けないということはないので、洞窟という冷暗所に奉納された、三葉ちゃんの口噛み酒は3年も持つはずがないのです。徹底した品質管理がされていれば別ですが……。店頭で販売されている生酒も鮮度が大事です。購入・開封したらすぐに飲み切りましょう。

1度目の火入れだけをするのが生詰め

おいしくても品質管理が大変な生酒。なんとか風味を生かしたまま、品質も保てないものでしょうか? そこで通常2度、行う火入れを1度だけにするというお酒もあります。1度目の火入れだけを行い、2度目の火入れを省略したものを生詰めと言います。秋の終わりから冬の初め、気温が低くなるころに出荷される“ひやおろし”と呼ばれるものです。外気温が低いので、お酒の品質が保ちやすくなるというわけです。

2度目の火入れだけをするのが生貯蔵

酵母や菌を活性化させないために、生酒や生詰めは寒い季節に出回りますが、夏にも出荷されるのが生貯蔵です。こちらは2度目の火入れだけを施したもの。お酒を瓶に詰めるときに火入れをしないのが生詰めでしたが、生貯蔵は火入れをせず、生のまま貯蔵するから生貯蔵と言うのです。大切に生で貯蔵されたお酒は瓶に詰められるときに初めて火入れを施されるのです。

原酒の生は高価

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お酒が持つ本来の旨味をダイレクトに味わうために生酒や生詰め、生貯蔵という製法が生み出されました。もちろん、割水を行ってアルコール調整したものもこれらの製法が採れるので、生と銘打ったものがすべて原酒というわけではありませんが、原酒の生は超が付くほどデリケートですから非常に高価です。

アルコール度数の低い原酒

原酒の生は高価というのはもちろんですが、割水をしていないため、アルコール度数が非常に高いのです。最近は、度数が高い日本酒は苦手…という方にもおすすできるアルコール度数を抑えた、15度前後の原酒も出回るようになってきています。

アルコール度数を抑えるには従来、早めに発酵を切り上げさせればよいのです。しかしそうすると、効率は下がります。大量に発酵させて、割水をすればより大量のお酒が造れますが、意図的に発酵を抑えれば生産量は減少します。それでもあえて、アルコール度数の低い原酒を製造する価値はあります。原酒は、それほどまでに美味で、いつまでも飲んでいたくなるようなお酒なのです。日本酒の魅力をできるだけ多くの人に伝えたい。もちろん、通常の原酒よりも高価で手間もかかりますが、アルコール度数の低い原酒製造は、酒造りに携わる人々の心意気なのかもしれません。

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